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<第3回唐津演屋祭 7月22日>1日目レポート

<第3回唐津演屋祭>は、唐津ショートフィルム特集上映でスタート。唐津を舞台にした2作品の新作ショートフィルムを上映し、ティーチインを行いました。商店街の方や地元の方にたくさんご来場いただき、満員御礼のスタートとなりました。

唐津ショートフィルム特集上映

上映作品は 佐藤大地監督作品『50の贈り物』と、大門嵩監督作品『太かすらごと』

『50の贈り物』(佐藤大地監督)

ストーリー:母の四十九日。久々に再会した(兄)紘と(弟)純は母の遺した【やりたい事リスト】を兄の提案でやる事に。その中で家族の愛に気付き自らのコンプレックスに向き合う純の心の進化を描いた作品。
旧唐津銀行・虹の松原・中町casa・シアターエンヤなどで撮影されました。

監督&脚本&撮影&編集&フラワー装飾の佐藤大地監督、紘役の坂田光輝さん、母役の吉村志保さん、撮影アシスタント(ビデオグラファー)・照明を担当された國松康宏さん、フォトグラファーの占部ちひろさんにご登壇いただきました。

今作が佐藤監督の初監督作品となります。「自身の経験から家族の映画が作りたかった。今回唐津で映画祭があるということで、唐津で撮影した」と語ってくれました。

主演・紘役の坂田光輝さんは「家族のような唐津の皆さまに見守られて、この作品がスクリーンデビューしたことをうれしく思います」とお話しいただきました。

母役の吉村志保さんは「初めてスクリーンで鑑賞して、グッとくるものがあった」と話されました。

撮影アシスタント(ビデオグラファー)・照明を担当された國松康宏さんは「撮影で初めて唐津に来たが、良いところが多くてまた訪れたくなった」と振り返りました。

フォトグラファーの占部ちひろさんは「以前から知っているスタッフ・演者さんがこうしてスクリーンで観られるなんて、感動してしまいました」と話されました。

『太かすらごと』(大門嵩監督)

ストーリー:大阪での仕事を辞め、逃げるように祖父母が経営するお茶屋に転がり込んだカンネ。ある日、港で男だらけの中で働く漁師のマコトを見かける。その日からカンネの中で何かが動き出した…。
びんつけや茶舗・呼子港・根の家ROOTHAUSなどで撮影されました。

大門嵩監督、出演の篠崎孝子さん・冨田竹美さん、プロデュースした株式会社AOSTAのAoiさん・Yukioさんにご登壇いただきました。

株式会社AOSTAが唐津に事務所を立ち上げ、唐津の魅力を広く伝えたいと思っていたところ唐津演屋祭のことを知り、大門監督に映画製作をオファーして今作は生まれました。
大門監督は「唐津で映画を撮るオファーがあり、シナリオハンティングしていたところ、”びんつけや茶舗”を見つけた。シナリオもまだないのに、その場で撮影許可をお願いし、OKをもらっていた」と振り返りました。

びんつけや茶舗のお母さんで、今作に出演された篠崎孝子さん。「最初の脚本は大阪弁だったけど、唐津弁に直させてもらった」と話されました。

出演の冨田竹美さん。「脚本を前日夜にもらったり、アドリブがあったりとバタバタだったけど、思いがけず素敵な経験ができました。映画を通して唐津の魅力が発信できれば」と語りました。

プロデュースした株式会社AOSTAのAoiさんは、「よりよい仕事をするためには衣食住を用意するだけでなく、そこにゆとりや美しさが必要だと思っている。唐津に初めて来た時に、その魅力が全部あると感じた。その魅力を伝えるために、大門監督にオファーしてよかった」と話されました。

株式会社AOSTAのYukioさんは「唐津の方々にやさしく接していただき、楽しく生活ができている。いろいろな形で唐津の魅力を発信していきたい」と語りました。

サプライズで篠崎孝子さんに「第3回唐津演屋祭 助演女優賞」が贈られました。
記念の楯を贈呈された篠崎さんは「ありがとうございます。撮影中に監督と冗談で『女優賞とれるかも』と言っていたことが現実になりました。店頭に飾ります」とお言葉を頂きました。

大門嵩監督は過去2回の演屋祭で入賞し、そのことが縁で「第3回唐津演屋祭」グッズデザインをしていただきました!

大森立嗣監督 特集上映&ティーチイン

午後は、大森立嗣監督特集上映&ティーチインを開催しました。前半は、短編映画『GOD SPEED YOU』(2011年)、長編映画『セトウツミ』(2016年)の2作品を上映しました。

【大森立嗣 / 映画監督】
1970年東京生まれ。父は俳優、舞踏家の麿赤兒、弟は俳優の大森南朋。
荒井晴彦監督、阪本順治監督、井筒和幸監督などの助監督を経て、01年自らプロデュースし、出演した『波』(奥原浩志監督)で第31回ロッテルダム映画祭最優秀アジア映画賞“NETPAC AWARD”を受賞。05年荒戸源次郎のプロデュースにより、『ゲルマニウムの夜』を初監督。第15回日本映画プロフェッショナル大賞新人賞。10年『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』で第60回ベルリン映画祭フォーラム部門正式招待作品、第51回日本映画監督協会新人賞受賞。11年『まほろ駅前多田便利軒』キネマ旬報ベストテン4位、13年『ぼっちゃん』第23回日本映画プロフェッショナル大賞作品賞。『さよなら渓谷』第35回モスクワ映画祭審査員特別賞、第56回ブルーリボン賞監督賞受賞。『かなたの子』(WOWOW)が放映、14年『まほろ駅前狂騒曲』、16年『セトウツミ』が公開。17年『光』第12回ローマ国際映画祭オフィシャルセレクション上映。18年『日日是好日』第43回報知映画祭監督賞。19年『母を亡くしたとき、僕は遺骨を食べたいと思った。』『タロウのバカ』が公開。20年『MOTHER マザー』が第75回毎日映画コンクール日本映画大賞、『星の子』が第30回日本映画批評家大賞を受賞。22年『グッバイ・クルエル・ワールド』が公開。最新作は、24年公開予定の『湖の女たち』。

大森監督との出会いは、シアターエンヤの前身「唐津シネマの会」で発行していたオリジナル機関紙「IMAKARA」の2013年のインタビューでした。大森監督は「唐津シネマの会はその当時から”唐津に映画館をつくりたい・映画館を復活させたい”と話しており、実際にできてしまうのは本当に凄いこと。全国に知らしめたい」と話されました。

最初に上映した『GOD SPEED YOU』は、東京都の港区アート・アーカイヴ=地域芸術資源採掘プロジェクトが主催したイベント『なにかいってくれ いま さがす』のために制作した映画です。べケットの戯曲『ゴドーを待ちながら』の一部を引用した、宇野祥平さんと鈴木卓爾さんの会話が中心となる作品で、「セリフの行間を、街にある広告のカットで埋めたらどんな新しいものが生まれるか、という実験をした」と振り返りました。

『GOD SPEED YOU』は一般の興行としては上映されておらず、大森監督が「全国でも数十名しか観てないのではないか」とおっしゃるほどレアな作品。貴重な上映となりました。

『セトウツミ』は、性格は正反対だがどこかウマが合う高校2年生の内海想と瀬戸小吉による会話劇。『ゴドーを待ちながら』を意識した2人の会話劇であったり、こちらにも宇野祥平さん・鈴木卓爾さんが出演されていたりと『GOD SPEED YOU』との共通点も多く、大森監督も「この2作品の組み合わせは面白い。東京でも上映しなきゃいけないな(笑)」と話されました。

人気漫画が原作の『セトウツミ』について大森監督は、「原作でセリフがよくできている。そのままやると漫才になってしまうので、主演の二人には『漫才ではなくて、ちゃんと芝居にしよう。型にはめるのではなくて、考えてセリフを喋ろう』という演出をつけた」と振り返りました。自然な演技を生み出す演出法として、「セリフとセリフの行間を、役者さん自身が考えて、埋める作業をしてもらう。それによって、その役・その人だけが持つ意味が生まれる。その瞬間に、替えの利かない役者になっていく」ということを教えてくれました。
現場では主演・菅田将暉さんの祖父母が応援にきた、という裏話も。

長編映画と短編映画の作り方の違いについてお聞きしました。大森監督は「どちらも大変。長編映画はストーリーの起伏・起承転結が必要で、短編映画はごまかしが効かない。全部ばれちゃうからそれもまた大変。」とそれぞれの難しさを語りました。

お客様との質疑応答では、今後チャレンジしてみたいことについて質問が上がりました。大森監督は「最近の映画祭で受賞されている作品は、僕が学んできた映画の語りと違う話法で語られている気がしている。それが何なのかをもっと知りたいし、新しいものに触れたい・チャレンジしていきたい」と語りました。

大森立嗣監督特集上映&ティーチイン 後半は、芦田愛菜さん主演の長編作品『星の子』(2020年)を上映。

『星の子』は今村夏子さんの同名小説を映画化した作品です。『セトウツミ』や『さよなら渓谷』など、原作がある作品を映像化するときに気を付けていることをお聞きしました。
大森監督は「一番最初に読んだ時の感覚を大事にする。映画を作る過程は長いので、どう思っていたのか曖昧になってしまうので、自分の心が動いたところを素直に映画にしていくよう心がけている」と話されました。

大森監督は今作について、「両親が宗教を信じている、その原因は自分にある。年を重ねて自分や家族がどう思われているか分かってくるときに、どうするか。答えははっきり出せない。だけど考えることはやめられない。そして言いよどみながら態度をいったん保留にする。そこを映画として抽出しようと考えた」と振り返りました。続けて「分かりやすい答えを求めてしまう時代で、よくあるような答えを勝手に出さないことを大事にした」と語りました。

また今作では思春期の子どもの演技が光りました。大人と子どもの演出方法の違いをお聞きしました。「演技初めての子どもには、演技というよりも一緒に遊ぶ感覚。彼が感じるままに動ける環境をつくった」と振り返りました。主演の芦田愛菜さんについては「彼女はうまいから、うますぎるところを抑制したくなる。自分の中で完結させると言葉が届かなくなるので、<周りに投げ出しちゃっていいよ>と伝えていた」と話されました。

お客様との質疑応答では、「今回上映の作品や『日日是好日』、『グッバイ・クルエル・ワールド』など、本当に幅広いジャンルの映画を撮られていて凄いなと思う」といった声が上がりました。大森監督は「決められた価値観(モラルや法律など)の外側にいきたいと思っている。”人間そのもの”を見たい。それには普段の生活をするうえで社会性が少し邪魔になるが、映画ではそれを退かすことができる。”人間そのもの”にフォーカスを当てて、どのジャンルの映画でも人間を肯定するような作品を撮っていきたい」と語りました。

幅広いジャンルをエンタテインメントに昇華する大森監督にクリエイティブの源についてお話しいただきました。
「両親が自由人で、父(麿赤兒さん)と話していても『なんだっていいんだよ!』と良い意味で”いい加減”な言動が、人をすごく楽にさせる。『舞踏なんて1時間立ってりゃいいんだよ!1時間立ってりゃたいしたもんだろ!』なんて無茶苦茶なことを言うが、それでフッと救われたりするし、それも人間を肯定する視点なのかな、と思ったりする」と、ご両親からの影響をお話しいただきました。

終映後には大森監督によるサイン会を行いました。

午前は地元商店街の方々、午後はたくさんの映画ファンにお集まりいただき、大盛況のうちに1日目が終了!
ご来場いただき、誠にありがとうございました。