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2025.09.14(日)
唐津国際映画祭2025オープニングイベント『ケイコ 目を澄ませて』ティーチイン付舞台挨拶レポート
7月8日(火)~13日(日)の6日間にわたり、「唐津国際映画祭2025(KIFF2025)」を映画館「シアター・エンヤ」で開催しました。
オープニングを飾ったのは、本映画祭アンバサダーを務めてくださった三宅唱監督作『ケイコ 目を澄ませて』。上映後にはティーチイン付き舞台挨拶が行われ、三宅監督と主演の岸井ゆきのさんに加え、サプライズで松浦慎一郎さん(俳優/ボクシングトレーナー)も登壇!
会場は満席となり、上映後には温かい拍手が響き渡りました。
舞台挨拶にはサプライズゲストとして、本作でボクシングトレーナーを演じた松浦慎一郎さんも登壇。16mmフィルム撮影のこだわりや、役作りについて、貴重なお話が語られました。

三宅唱監督のお話
監督が映画を志したきっかけは、中学3年の文化祭で自主映画を作ったこと。「映画は面白い」と思ったものの、地元札幌には映画関係者がいなかったため職業にできるとは考えていなかったそうです。その後、一橋大学に進学し、映画サークルでの活動を通じて映画制作を続けてきました。
本作を16mmフィルムで撮った理由については、「制約があるからこそ緊張感が生まれる」と語り、1回勝負の撮影が俳優たちの集中力を高めたと話しました。

岸井ゆきのさんのお話
岸井さんは、本映画祭の前身「第2回演屋祭」でも上映し、審査員として参加された今泉力哉監督作『愛がなんだ』でもご縁がありました。岸井さんは俳優の道に進んだきっかけについて「現在の事務所に紹介されて入ったことが始まりでしたが、演劇に出会ってから本当にやりたいと思いました」と振り返ります。小さな役でも創作に関われる舞台に魅力を感じ、そこから映画の世界へと広がっていきました。
また、役作りのために3ヶ月間ボクシングの特訓を積み、大晦日や正月も休まず練習したというエピソードも。最初はミットにパンチを当てることすらままならなかったそうで、作品にボクシング指導として携わった松浦さんから「才能ではなく努力の人」と絶賛されると、会場からは大きな拍手が送られました。役を通じて「自分自身との戦い」を実感し、心身を削りながら役にのめり込んでいったといいます。

松浦慎一郎さんのお話
俳優でありプロのトレーナーでもある松浦さんは、三宅監督から自身の受賞歴を紹介されると照れ笑い。本作で岸井さんを指導する中で、彼女の真剣さや遠慮のない姿勢に感銘を受けたと語りました。撮影中は岸井さんの姿勢に驚かされることばかりだったそうです。対戦相手のプロボクサーが誤って頭に当ててしまった際も、「遠慮しなくて大丈夫」と岸井さんが言い切ったエピソードには、会場からもどよめきが。岸井さんの真剣さに、松浦さんも思わず「やばいな」と感じたそうです。

作品について
本作の主人公は、実在するろう者の女性ボクサー小笠原恵子さんをモデルにしています。三宅監督は「この作品に携わるまで、自分の周りにろう者の方はいませんでした。調べたり実際にお会いしたりする中で、まず『自分は耳が聞こえるんだ』と改めて認識しました。その上でなければ、聞こえない方のことを考えることは難しいと思いました」と語ります。また、作品づくりの際には「聴者が聴覚を意識できるように」との思いが込められたとのこと。エンドロールで日常音を流す演出や、手話での会話シーンで字幕を付けたり付けなかったりしたのも、「観客がそれぞれ違う感じ方をできれば面白い」との意図があったそうです。
また、岸井さんはケイコ役について、「最初は正直、ケイコの気持ちが全然分かりませんでした。どうして殴るのか、根本的な部分で理解できなくて…。でも練習を続けていくうちに、これは相手と戦うというより“自分との戦い”なんだと気付いたんです。」と語ります。役に近づくために糖質制限を始め、体も重くなり、頭もぼうっとするような感覚を味わいながら、どんどん役にのめり込んでいったと言います。
また、三宅監督自身も練習に付き合ったことで、脚本も少しずつ変化。「そのおかげで、より“ケイコになれる”瞬間が増えていった気がします」と岸井さんは振り返ります。
岸井さん「一生背負っていく作品」
「主演で、特殊な役で、しかもフィルム撮影で、三宅監督の作品。さらに世界20ヶ国以上を巡った映画でもあります。自分の肉体や精神のすべてを込めて参加した作品であり、作り上げていく中で“精神を削る”という感覚もありました。深く潜り込んだ分、これから一生背負っていくことになるんだと感じています。」
三宅監督、キャスティングについて
「プロデューサーから“岸井さんで実在のボクサーの映画を作りたい”と話があり、僕に声がかかって実現することになりました。僕自身も岸井さんとご一緒したいと思っていたので、とても嬉しかったです。その後、他のキャストについては、僕から提案させていただきました。」
最後に唐津国際映画祭へのエールをいただきました!
三宅唱監督
「今回アンバサダーを引き受けたのは、最初に声をかけてくださったのが信頼している浅野博貴プロデューサーだったからです。安心して任せられると思いましたし、唐津のことを調べてみたら“いいところだな”と思って(笑)。地名や”やきもののまち”というのは知っていましたが、詳しくは知らなかったので実際に来てみたいと思ったんです。映画祭は明日からが本番ですので、ぜひ楽しんでください。」
岸井ゆきのさん
「ここで映画が盛り上がったら、本当に素敵だと思います。私自身、シネコンのないまちで育ったので、地元に映画館があることの大切さを感じています。映画館で観た映画の記憶は今も心に残っています。だから、またいつか私の出演作もここで上映していただけたら嬉しいです。この映画館がずっと元気であることを祈っています。」
松浦慎一郎さん
「(舞台挨拶が)無事に終わってホッとしました。本当は客席から二人のトークを観たいくらいでした(笑)。僕の故郷は長崎県の五島列島ですが、大学は福岡で、同級生が唐津に住んでいるので訪れるのは今回で3度目です。今朝は唐津神社に行って映画祭の繁栄をお祈りしてきました。五島には映画館がないので、こうして映画館で映画を観られる環境があることは本当に幸せなことだと思います。ぜひ大切に広げていってほしいです。」
唐津国際映画祭2025のオープニングを飾るにふさわしい、熱気と感動あふれるイベントとなりました!
唐津国際映画祭後、三宅監督最新作で松浦さんもご出演の『旅と日々』がスイスのロカルノ国際映画祭で最優秀賞「金豹賞」&ヤング審査員賞をW受賞したり、釜山国際映画祭(9/17~9/26)コンペティション部門に選出され、スタッフ一同嬉しく思います。
そして、岸井ゆきのさんの公式Instagamでは、唐津国際映画祭や唐津でのご滞在の様子を発信してくださっています。皆様、ご来唐ありがとうございました!
