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2023.03.19(日)
『眩暈 VERTIGO』ティーチイン舞台挨拶レポート!!
平素よりシアターエンヤをご愛顧いただき誠にありがとうございます。
3月17日(金)~3月19日(日)に実施しました『眩暈 VERTIGO』ティーチイン舞台挨拶のレポートです!井上春生監督にご登壇いただきました。
▼『眩暈 VERTIGO』作品紹介
吉増剛造(詩人・ 1939/2/22生まれ)が、盟友であった故ジョナス・メカス(1922/12/14〜2019/1/23)の幻影をマンハッタンとブルックリンに追いかける。時はコロナウイルスがNYCに襲いかかる直前の2020年1月末、間一髪の渡航だった。実験映画界の巨人と言われたメカスの一周忌に、レクイエムとも言える詩が誕生する様子が描かれていく。
今回ご家族のご事情によりご参加できなくなりました吉増剛造さんより、3枚の原稿用紙のお手紙をいただきました。お手紙のコピーを会場の皆様へお配りし、井上監督に解説していただきました。
お手紙の中では”天命”という言葉でお気持ちが綴られています。そのことについて井上監督は「先日、吉増剛造さんが井上靖記念文化賞を受賞されました。井上靖さんの著作『孔子』の中に”天命”という言葉が印象的に出てきます。おそらくその言葉をこの手紙の中に書かれたのかもしれません」と話されました。
吉増剛造さんの出会いについて。
「2018年『幻を見るひと』というドキュメンタリー映画を撮るときに初めてお会いした。『幻を見るひと』は、東日本大震災の津波に衝撃を受け言葉を失った吉増剛造さんを、同じく日本を代表する詩人・城戸朱理さんが水のメタファーを探しに京都への旅に誘った企画でスタート、私に演出の依頼があった」とお話しいただきました。後日談として、吉増さんから「詩が書けない時期なんてあったっけ?」と言われて、”文字として残っていなくても、頭の中・心の中ではずっと詩の創作を続けていたんだ”と感じたそうです。
今作『眩暈 VERTIGO』を制作した経緯について。
「ジョナス・メカスと吉増さんが盟友であるというのは知っていた。『幻を見るひと』がニューヨークの映画祭で上映される際にメカスにDVDを送り、幸運にもメカスと会える機会ができた。『眩暈 VERTIGO』にも登場するあの部屋で2時間くらい話した。《次にどんな映画を撮るのか?》とメカスに聞かれ、色々企画はあったがその時は答えることができなかった。その後1年も経たずしてメカスが亡くなってしまった。吉増さんとの縁でメカスに会えて、《次にどんな映画を撮るのか?》と聞かれたら、もう貴方を撮るしかないでしょう」と話されました。
撮影時の状況についてお話しいただきました。
「映画では救急車の音が大きく入っている。新型コロナの感染拡大が起きる直前で、まさに急患が多数病院へ運ばれていた時期だった。あと数日ズレていたら、今作は撮影できていなかったかもしれない」と振り返りました。
吉増剛造さんの眩暈、そして詩の完成については「吉増さんは予定調和を壊す人で、その壊す瞬間が面白い。あえて壊されるようなシナリオを書いたし、日程が限られている中で詩が完成しないことも考えていた。眩暈の瞬間は、撮影が終わってしまうのか・この後何かが起きるのかと半々で考えていたが、体調も回復し、素晴らしい詩/日常風景の解像度を上げてくれるような詩を書いていただいた」と語ってくれました。
今作『眩暈 VERTIGO』は吉増剛造とジョナス・メカスの精神世界を追体験するような、ドキュメンタリーともまた違う独特の『詩の映画』になっています。映画づくりの過程をお伺いしました。
「映画は”詩人が亡き盟友に追悼の詩を読みに行く”というシンプルなストーリーではあるが、吉増さんの言葉とメカスの歴史を辿っていくと膨大な質量になる。最初は吐きそうになりながら編集した」と苦労を語られました。
「ある時から、吉増さんの言葉を音声だけで聞くようになった。何回も寝るときに枕元で流し、時には夢をみたり、吉増さんの言葉からイマジネーションを拡げて、音声から映像を作っていった」と、詩人の映画ならではの編集過程をお話しいただきました。
お客様とのコミュニケーションでは、「字幕が英語で出てきて、音声は日本語も英語も出てきて、目・耳・頭フル活用で鑑賞した。多重の朗読が映像を鮮やかにしていて、面白い体験だった」と感想が挙がりました。
これに井上監督は「メカスは少年時代からロシア語・ドイツ語を学ばされ、そしてアメリカへ移住し、そのうち母国語リトアニア語を話せなくなった。この映画の言語は、多言語に囲まれたメカスの人生そのもの」と
話されました。
劇中に印象的だった朗読については「クラウドファンディングのリターンで、朗読での出演権を返礼品にした。コロナ禍で収録ができず、一人ひとりにボイスレコーダーを送り、朗読を入れてもらった」と振り返りました。
お客様からは「心の奥底にある得体の知れない”何か”を引きずり出す行為が”詩”で、心の奥底で”何か”を邪魔するものが”意識”ではないか。”眩暈”で意識が飛んだ瞬間に、邪魔するものがなくなり、”詩”が生まれたのではないか」というような、詩と眩暈の解釈についての意見も挙がりました。
井上監督は「メカスも同じことを言っていたと思う。映画を観て、そこまで考えてくれたのは光栄です」と話しました。
最後に井上監督は「私たちは黒か白か正解を求めて探しに行ってしまうが、詩やこの映画は、ご自身が感じたことこそが正解。観るたびに違った感想を持ったり、違う風景が見えることは、それもまた正解だと思う。詩は言葉が意味を持つ前の文学。なのでそこに意味を求めても、意味がないのかもしれない。映画の中で印象に残った言葉があるとすれば『それがこの映画の本質です』という思いで制作した」と話されました。
舞台挨拶後は、サイン会を行いました。県外からも多くのお客様にご来場いただきました。
『眩暈 VERTIGO』は3/23(木)までの上映です。
井上春生監督、そしてご来場のお客様、ご参加いただき誠にありがとうございました。
今回ご参加が叶わなかった吉増剛造さんにお会いできる機会を作れたらと考えております。
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